今回は、お涙頂戴もののニュースを紹介してみましょう。シンガポールのカーシェアリングサービス企業のSmove社が、創業後は破綻や数ヶ月にも渡る給料ゼロの危機などを経験しながら踏ん張り続け、遂には同国一の業界規模へと成長したという話です。
5年前に創業。従業員4人。たった6台でのスタート
via www.smove.sg
バルカン・ポストというサイトの記事を紹介してみましょう(2018年10月31日付け)。
同社の創業は5年前。従業員は僅か4人で、保有する車両も6台だったとのことですから、少々無謀な船出と言えますね。
COOのジョゼフ・ティン氏は「オペレーションはワンマン。後は開発チームがあるだけでした。私自身も含め、全員が車の整備や掃除を行っていました。しかも、シンガポールでのネットワーク構築作業と同時進行。文字通り、寝る間が惜しい日々が続きました」と、当時を振り返ります。
勝算があっての行動でした。当時、シンガポールにはカーシェアリングサービス企業がゼロ。つまり、ライバルがいなかったのです。
そうした中での奮闘でしたが、間も無く暗雲が訪れます。運転資金が底をついてしまったのです。スタッフの中には、家賃が惜しいからとオフィスに寝泊まりする猛者まで現れました。
「当時、私達は破綻の危機に直面していました。何人かのスタッフには、給与を数ヶ月払えない状況が続きました。それでも、シンガポールでのシェアリングサービスの前途は明るいと、望みを捨てませんでした」(ティンCOO)。
同国での移動の手立てを改善させたいと、「シンガポールの移動」(Singapore Move)という言葉を短くしたのが、社名の由来。ティン氏と、創業者のトム・ロケンウィッツCEOの両氏には、シェアサービスこそシンガポールの交通の未来であり、こうしたサービスの可能性は高いと確信していました。
とは言え、苦難は続きました。創業当時はシェアリング・エコノミーに対する国内の理解が薄かったのです。パイオニアたらんと、何の参考書やテンプレも無しに、ビジネスモデル構築を行わねばなりませんでした。
柔軟性で危機を突破、110万ドルの資金調達に成功
危機を乗り越えられたのは、柔軟性。当初は電気自動車のシェアリング・サービスを考えていましたが、すぐさま止めます。インフラが整っていなかったからです。
やがて、奮闘する同社に興味を示す投資家が現れました。2014年には、創業間もない企業への投資(シリーズA)として、米ドルで110万ドルの資金調達に何とかこぎつけます。前後してシェアリング・エコノミーがブームとなり始めたのも、追い風となりました。
Uberと提携し、保有台数は今や400台を超えました。車種もトヨタやBMWまでのラインナップがあり、スタッフも60人となりました。何よりも、利用ポイントが110箇所以上となっているそうです。
「数え切れないほどのミスを重ねましたが、そこから何物にも代え難い成長への教訓を汲み出せました。今なお、事業の一部分では試行錯誤を重ねています。資金調達によって、採用を増やす一方で、関連するテクノロジーを発達させられました。それよって事業が拡大出来ました。まだまだ成長中ですし、色んな変更があるでしょう。ゴール達成なぞ、まだまだ先ですよ」(ティン氏)。熱く、かつ、正直な人ですね。そうしたところも、成功の秘訣なのでしょう。
YouTubeの公式アカウントのプロモーションより
via www.youtube.com
「好きな場所で利用可能」武器にレンタカーに対抗
賢明なる読者の皆様は、「レンタカーに、どう対抗するんだろう?」とお考えでしょう。Smoveは「自由な乗降サービス」を謳っています。好きな場所で乗降出来るというのを、売りにしているのです。
会社が作ったガジェットを車のフロント・ウィンドウに設置。位置情報を含む自動車のデータは、全て把握しています。
また、車載のSIMカードによって、Wi-Fi機能が制限された地下駐車場などもカバー。良く考えていますね。
なお、利用開始に当たっては、ウェブサイトからアカウント登録が必要です(その際、運転免許証の提示が義務づけられています)。登録後、ドライバーはアプリで車を予約し、EZリンクカードをタップで車のロックを解除出来ると言うのが、運転までの流れ。なお、サインアップ時にメンバーシップ料金などは無料ですが、車種などによっては最低3時間の予約で予算は50ドルから。また、6時間のレンタル料金は90シンガポールドルですが、1日借りるとなると150シンガポールドルかかります。
こうした価格体系ですが、シンガポールで自動車を保有するコストは高く、おまけに自動車税も重いので問題にならないだろうとしています。逆に、シェアリングこそが財布に優しいだろうと、同社では考えています。
また、安価で信頼される公共交通システムも、実はライバルにはならないだろうとしています。結果として、そうした交通機関に頼る人達が、わざわざ高い車を持ちたがらないからです。
「シンガポールのカーシェアリング協会によりますと、1日の自家用車の稼働は10%未満で、残りはずっと駐車場に待機しているんです」(ティン氏)と、効率面での問題もあります。そこに商機を見出しているわけですね。
まとめ:黒字達成は未達。しかし、海外展開視野に
とは言え、危機は脱したものの、会社として黒字は今なお達成していません。投資家の期待に応えていくことが課題になっています。また、何時までも資金調達に頼っていられないとの思いもあります。
そんなSmoveが視
野に入れているのが、海外進出。プラットフォーム投資と、事業能力の向上に資金の大半を当てており「短期間のレンタルや、他の交通手段の模索も行っています。 成長を遂げている中、今後の弊社の繁栄に資する都市での事業拡大を視野に入れております」(同社)。具体的な国としては隣国のマレーシアやインドネシア、フィリピンを考えているのだとか。こうした国の主要都市では交通渋滞が酷く、カーシェアリングこそが特効薬になりそうだからです。
また、電気自動車での展開という夢についても諦めていません。「インフラが整いつつある中、原点に戻り、オプションとして提供出来たら」(ティン氏)。
事業はマラソンに似ていると、御本人は語ります。「直ぐに大金持ちになれるスキームではないのです。創業者は、ビジョンの実現に際しては金銭面と自分自身が犠牲を払う準備をしておかないと。間違っていると分かれば、謙虚になって心を開く必要があります。一緒に働く人が適切であれば、自らがミスしたら言ってくれます。最後は、ボスや創業者ではなく、チームとして成功に至るのです」
なお、リンクトインのプロフィール欄を見ると、大学での専攻は経営学。物流会社やPR会社、シンガポール・エアラインズなどを経て同社に参画なさった方だそうですから、テクノロジーに頑固なこだわりを持っていなかったのも成功の要因だったのでしょう。
とは言え、そうした方ですら、このような苦労を重ねておられるのですから、起業家が成功に至る道は、狭くて長く、棘だらけなのでしょうね。
出典:
バルカン・ポスト
How Smove Became The Biggest Car-Sharing Service In S'pore