本格的軽スポーツ「平成ABCトリオ」とは?

1990年代の初頭は軽自動車界にとっては大きな波が押し寄せていました。 それは従来の軽スポーティカーとは一線を画すような本格軽スポーツカーの登場という波です。 それもほぼ同時期に3車種も登場し、大きな話題となったのです。 既に20年以上も前のクルマ達ですが、現在でも中古車市場にしっかり存在しているマニア憧れの画期的なスポーツカーなのです!

ホンダ・ビート

ホンダ・ビート

ホンダ・ビート

1990年代初頭は3台の本格的な軽2シータースポーツが登場しています。 俗に「平成ABCトリオ」と呼ばれていました。そのうちの1台がホンダ・ビートです。 「ABC」の「B」です。 既に登場して大いなる注目を浴びていたスーパーカー・NSXと同様にミッドシップエンジン、後輪駆動というドライブトレインを採用しており、ミッドシップでありながらフルオープンモノコックボディとなっているのは量産車として世界初でもありました。 四輪独立懸架のストラット式サスペンション、そして、軽自動車として初めての四輪ディスクブレーキ、サイドインパクトビーム、SRSエアバッグ装備というメカの凝りようで、タイヤ規格も、前13インチ、後14インチというMRならではの前後異型タイヤとなっています。 1,175mmという低い全高により室内は相当狭く、トランク容量もかなり小さいので、トランクリッドに取り付けるキャリアが純正オプションとして用意されていた程です。 これはもう軽でありながら、趣味のためのスポーツカーに他ならないという存在でした。 そしてエンジンも特徴的です。 後で紹介する「平成ABCトリオ」の2車はターボエンジンですが、ビートはホンダらしく自然吸気(NA)で勝負しています。 しかもそれはSOHCエンジンなのですが、独立3連スロットル、燃料噴射制御マップ切換方式による吸気システムによって、自然吸気での自主規制いっぱいの64PSを8,100rpmという高回転で実現しています。 言ってみれば非常にホンダらしいスペックとなっていました。 ちなみに、創業者である本田宗一郎氏もが発表会に出席した最後のクルマがこのビートなのです。 商業的にあまり成功と言えず、1996年に生産を終了してしまいましたが、現在はこれの後継車とも言えるS660が発売されています。

スズキ・カプチーノ

スズキ・カプチーノ

スズキ・カプチーノ

3台の本格的軽スポーツ、次の1台はスズキ・カプチーノです。 「ABC」の「C」ですが、スズキ・カプチーノは1991年に登場したオープンタイプの軽スポーツカーです。 軽のサイズでありながら、ロングノーズ&ショートデッキという古典的なプロポーションのスタイルを採用したFRの本格派スポーツカーとなっています。 「平成ABCトリオ」の中で唯一のFRでしたが、フロントアクスルより後ろにエンジン重心部を位置させる「フロントミッドシップ」という手法により、重量配分もフロント51対リア49という理想的な配分を実現し、他のMRに対してひけをとっていません。 エンジンは縦置きになっていますが、左右にできるスペースを活かすことで、4輪ダブルウィッシュボーン式サスペンションを実現しており、これは軽自動車では初のことでした。 ブレーキは4輪ディスク、特にフロントはベンチレーテッドタイプで、オプションとしてABS、トルセンAタイプLSDも用意されるほどの本格派でした。ルーフは、3分割式の着脱が可能で、ハードトップ(クローズドクーペ)、Tバールーフ、タルガトップ、フルオープンという4つのスタイルを楽しめるようになっており、とにかくアイデア満載のクルマです。 一般的にオープンカーの場合は車体の剛性が問題になるのですが、大きな断面積を持つサイドシル、FRのプロペラシャフトを通すセンタートンネルを活用して剛性を確保しています。 それでも車両重量は軽ABCトリオ最軽量の700kgで、マイナーチェンジでは更に690kgまで軽量化されています。 しかし反面、車内容積に関しては大変少なかったようで、当時、各自動車雑誌でもその居住空間の狭さを弱点として指摘していたようです。 それでも販売は比較的好調で、軽としては非常に珍しいのですが、初期モデルはイギリスでも発売されていました。 もちろん今でも人気は高く、中古車はたくさん流通しています。

マツダ・オートザムAZ-1

マツダ・オートザムAZ-1

マツダ・オートザムAZ-1

発売時期が後だったので「ABC」の「A」が最後になってしまいました。 1992年発売のマツダ・オートザムAZ-1は、軽自動車界のスーパーカー的存在とでも言えるのでしょう。 AZ-1は軽規格ながら本格的なスポーツカーらしさを最も演出したクルマでした。 極端に低い車高、ガルウイングドア、グラスキャノピーデザイン、ミッドシップエンジン等、これ程までに特徴的な外観を備えた軽自動車は後にも先にもないでしょう。 車体構造も大断面サイドシルのスケルトンモノコックフレームで、そこにプラスチック製のボディーパネルが装着されています。サイズ 以外は全くのスーパーカーでした。 パワートレインは当時のスズキ・アルトワークスと共通となる3気筒DOHCのターボエンジンで、これをキャビンの後部、つまりミッドシップに搭載しています。ハンドリングはとにかくクイックで、ステアリングのロックトゥロックは何と2.2回転という驚きの設定です。 車両重量も720kgと軽く、当時「究極のハンドリングマシーン」と銘打たれたのにもうなづけます。 筆者はこのクルマで長距離ドライブをしたことがあるのですが、市街地では、横がタクシーならホイールとフェンダーしか見えず、更にトラックの後ろでは、離れていないと下に入ってしまいそうでした。 そして何より高速道路の料金所では、スライド式の窓からでは発券機に手が届かず、ガルウイングドアを開けて対応していたのを記憶しています。操縦性はまさにレーシングカートの様でした。 通常の乗用車とはまったく異なる乗車感覚だったのです。 マツダスピードのエアロパーツを装備する特別仕様車となる「マツダスピードバージョン」や、M2の企画によるエアロパーツ装備仕様車「M2 1015」なども設定されました。 すでに登場してから25年以上経過していますが、現在でも中古車市場での人気はかなり高く、100万円以上している車体が多いようです。 ちなみにこのオートザムAZ-1発売当時には、既にマツダは専用の軽用のエンジンを製造しておらず、スズキ・アルトワークスのエンジンを使用していました。現在でもマツダ独自の軽は製造しておらず、スズキによるOEMとなっています。

ダイハツ・コペン

ダイハツ・コペン

ダイハツ・コペン

ここまで本格的軽スポーツ「平成ABCトリオ」を読み進んでみて、「あれ、コペンは?」と思う方がいらっしゃるかもしれませんね。 しかし、「ABC」の「C」ではありません。 軽の2人乗りオープンカー「コペン」も確かに、かなりスペシャリティな1台です。 ただし、登場したのは「平成ABCトリオ」の約10年後となる2002年であり、直4DOHCのインタークーラ付ツインスクロールターボこそ搭載していましたが、クルマづくりの方向性はガチガチのスポーツカーではなく、快適にオープンエアを楽しめるスペシャリティカーだったと思います。 軽市販車では初の電動油圧式開閉式ルーフ仕様は大きな話題になっていました。 ちなみに、現在新型が市販されているのは、このダイハツコペンだけです。

さいごに

本格的な軽スポーツカー「平成ABCトリオ」は如何だったでしょうか? この3車は現在でも中古車市場で流通しており、高い人気を維持しています。 もちろん軽ですから、大馬力ではありませんし、ずば抜けた走行性能というわけでもありませんが、その個性的な持ち味を肌で味わってみるのも、現代だからこそ、非常に新鮮で楽しい経験になるかもしれませんね。 特に趣味的に2台目を検討している場合なら、是非一度、現車を見てもらいたいものです。
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