スマートフォンというのは、本当に便利ですね。アプリさえダウンロードすれば、様々な役割を果たしてくれるのですから。カーナビ機能も、その1つ。昔みたいに専用の機器も要らなくなったのは、財布に優しい限りなのですが、ここに来て捨て置けない話が。アメリカでは、「交通渋滞の元凶となっているかもしれない」との研究が発表されているのです。ありゃまぁ。
アトランタの中心街の住民「そういや、渋滞が増えたなぁ」
アメリカのアトランタにあるラジオ局、KMPGが9月18日付けで報じています。コカ・コーラやCNNの本社があるなど、ジョージア州きっての大都市とあって、交通渋滞も激しいらしく、注目を浴びているようです。
実際、同社とは別のWSB-TVの取材に対し(アメリカでは、他の報道機関の取材内容を引用することが良くあります)、アトランタの中心街に住む人が、「ナビゲーションアプリが人気になってから、渋滞が増えた」と答えています。
こうした傾向について、地元のアンシュレー公園シビック協会の副会長を務めるBill Bolen氏は、「中心街は非常に混み合っており、運転がすごく難しい。スイスイ運転しようと思っている人が多いだけに、アプリのせいで望ましからざる結果を招いているという状況を、社会は理解していない」と嘆いています。
ただ、これについて驚いていないのが、カリフォルニア大学バークレー校交通研究所のディレクターを務めるAlexandre Bayen氏。今回の研究を、チームで行ったからです。
「過去数年のデータを研究した結果、アプリの使用率が上がるにつれ、以前は発生していなかったような地域ですら交通渋滞が出現しているのが分かったからだ」とのこと。漠然とした体感ではなく、学術的な裏付けがされてしまった格好です。
自分のことしか考えず、裏道を走った結果が、この大渋滞!
原因はselfish、つまり利己的なルート表示だそうです。「こっちが近道ですよ」とアプリが表示するのは、メイン・ストリートではなく、裏道。それを鵜呑みにしたドライバーの多くが、示された道を走ると、メイン・ストリートより道幅が狭い分、混んでしまうというのが話の流れ。納得できる説明ですね。
「ユーザーは、目的地に可能な限り早く行きたい。それに応える形でアプリが作動するのだが、往来に及ぼす結果を考えていないのだ」と、Bayen氏。
渋滞の緩和を目的に敷設されたわけではない道路を走るものですから、ドライバーは早く到着できないだけでなく、騒音や二酸化炭素による環境への負荷を増大させていると、研究報告では指摘しています。色んな意味でシャレになりませんが、対策を打つことは可能なのだそうです。
「停止標識を増やしたり、ミラーリング・ライトを変更したり、信号の変わるタイミング・スケジュールの変更など、都市の輸送インフラストラクチャーに手を加える」というのが、その対策。こうした変更は、それほど難しくないとBayen氏は指摘しています。
実際、ジョージア州の運輸局の專門官であるMatthew Glasser氏によると、信号の転換タイミングを変えたことで、こうしたアプリを使うドライバーに影響が出ているそうです。
「試行錯誤を重ねた。心臓のバイパス手術のようなもので、閉塞した場所が分かったら、回避出来るようになった」とご本人。
ちなみに、上記のBolen副会長によると、渋滞がひどくなった地域の住民の経済損失は数百万ドルにも及んでいるそうですから、たまったものではありませんね。
まとめ:半年以上も前に警告していたのに、今頃になって…
トホホな気持ちにさせられるのは、このBayen氏が率いるチームの研究が、半年以上前の今年2月に出来上がっていたことでしょう。科学情報サイトのPhys.orgが、2月2日付けで報じているからです。
The Impact of Routing Apps on Traffic: Alexandre Bayen
via www.youtube.com
この通り、同校の公式アカウントでは、講演に聞き入る聴衆の反応が伝わってきます。悪くない感触だったろうに、どうやら専門家以外の人が注目するようになるのに7ヶ月もかかったようです。
ちなみに、アメリカではラッシュアワーの時間帯に、住民以外の人が道路を利用するのを禁じている都市が多いのだそうですが、ユーザーは文字通りの「抜け道」として、こうしたアプリを使っているのだとか。病理は深いですね。
事態を憂えたBayen氏は、交通渋滞を起こさないようなカーナビアプリの開発に参加しているのだそうです。一刻も早い実現を待ちたいところですね。
それにしても、この話、日本は対岸の火事と見なして良いのでしょうか? 皆さん、どう思われますか?
]]>