車を高く売るためにできることは、公表されている資料をたどると多くありません。買い取った事業者がその車を次に売るときに何を表示しなければならないかが業界のルールで決まっていて、査定はその項目を埋められるかどうかの確認になるからです。決まっている項目のうち、売る前の数週間で手を入れられるのは3つだけです。
先に断っておくと、この記事には買取価格の相場も、「これをすれば何万円上がる」という数字も出てきません。当サイトは買取価格のデータを収集していないため、金額を書けば推測になります。書けるのは、法令と業界の自主ルールで決まっている部分、つまり価格判断の材料が何で、どこに記録として残るのかです。
そのかわり、値上げの話よりも効く論点を1つ足します。提示された金額を、引き渡したあとに下げられないようにする備えです。実際に寄せられている相談の多くはここで起きています。
査定額の材料は、買った側の「売るときのルール」から逆算できる
自動車公正取引協議会は、自動車公正競争規約を「消費者の方々に安心してクルマを購入していただけるよう、業界が自主的に設定した自動車を販売する際の表示と景品提供に関するルール」と説明しています。目的の1つは「クルマ購入の際に必要な価格や品質等の適正な情報を提供する」ことです。
この規約は、中古車を展示して売るときに表示しなければならない項目を定めています。同協議会が挙げている11項目は次のとおりです。
| 表示する項目 | 協議会の説明 |
|---|---|
| 販売価格 | 購入の際に最低限必要な全ての費用を含めた「支払総額」を表示 |
| 初度登録年月 | 登録車は初度登録年月、軽自動車は初度検査年を表示 |
| 車名及び主な仕様区分 | その車両を特定するための情報を表示 |
| 定期点検整備の有無 | 実施する場合は「定期点検整備付き」、しない場合は「定期点検整備なし」 |
| 保証の有無 | 費用が車両価格に含まれる場合は「保証付き」、それ以外は「保証なし」 |
| 走行記録数 | 走行距離計の示すキロ数を表示 |
| 修復歴の有無 | 車体の骨格に当たる部位の修正あるいは交換歴がある場合に「有」と表示 |
| 使用歴 | 自家用、営業用、レンタカー、その他の使用歴を表示 |
| 前使用者の点検整備記録簿の有無 | 2年以内の定期点検整備がある場合に「有」と表示 |
| 自動車検査証の有効期限 | 有効期限の年月日を表示 |
| 自動車リサイクル料金 | 「預託済み」または「未預託」の状態を表示 |
この11項目は、買取事業者にとって仕入れた車を売るときに埋めなければならない欄です。「有」と書けるか「なし」と書くことになるかで、次の買い手に対する説明が変わります。だから査定は、見た目の印象ではなく、この欄を確定させる作業になります。
そう考えると、売る側ができることの範囲がはっきりします。すでに事実として決まっている欄は動きません。動くのは、書類や記録が手元にあるかどうかで「有」と「なし」が分かれる欄です。
手を入れられない4項目を、先に手放す
初度登録年月、車名及び主な仕様区分、使用歴、走行記録数は、売る前に何をしても変わりません。ここに時間を使わないと決めるだけで、準備の中身が絞れます。
修復歴の有無も同じです。自動車公正取引協議会は修復歴を「自動車公正競争規約及び一般財団法人日本自動車査定協会が定める修復歴の判断基準に基づく、車体の骨格に当たる部位の修正あるいは交換歴」と定義しています。どの部位が骨格に当たるかは規約の本文で決まっていますが、部位の名称は今回の確認で正確に読み取れなかったため、この記事では列挙しません。板金修理をしたことがあるかどうかではなく、規約とこの判断基準に当てはまるかどうかで決まる、という点だけを押さえてください。
走行距離については、もう少し踏み込んでおく価値があります。走行記録数の表示は「中古車を販売する時点での走行距離計に示されたキロ数」と定義されていて、メーターの数字そのものです。ここで重要なのは、その数字を裏側から確かめる経路が用意されていることです。
1つは点検整備記録簿です。自動車点検基準は記録簿の記載事項として「点検又は特定整備時の総走行距離」を挙げています。点検を受けた時点の距離が、紙に残っている形になります。
2つ目が車検証です。3つ目が走行メーター管理システムで、自動車公正取引協議会は、日本オートオークション協議会が開発したもので「オートオークション会場に出品された中古車の走行距離のデータを蓄積し、データベースとして集中管理する」仕組みだと説明しています。加入している事業者は店頭の端末から仕入れ車両の走行距離をチェックできるとされています。ただし同協議会は「システムに走行距離のデータがない車両についてはチェックできません」とも明記しています。
つまり、走行距離は売る側が申告する数字ではなく、複数の記録と突き合わせられる数字です。査定士が実際にどの順で車を見ていくかは車査定では何を見るかで扱っています。
手を入れられる1つ目:点検整備記録簿をそろえる
ここからが本題です。11項目のうち「前使用者の点検整備記録簿の有無」は、車の状態ではなく紙が車に備え付けられているかどうかで決まります。
自動車公正取引協議会はこの項目を「展示時点から2年以内に実施された定期点検整備の記録簿が車両に備え付けられているかいないかの表示」と定義しています。2年という区切りが付いている点に注目してください。
法令側の期間も同じです。自家用乗用車は道路運送車両法で1年ごとの定期点検整備が求められ、国土交通省は自家用乗用車と軽自動車について「1年ごと29項目、2年ごとに1年ごとの29項目を含む計60項目の点検整備を行う必要があります」と案内しています。記録簿の保存期間は、同省の説明では「3ヶ月、6ヶ月点検対象車は1年保存、1年点検対象車は2年保存」です。自動車点検基準も、1年点検の対象になる自動車について保存期間を2年間と定めています。
法令が保存を求める期間と、再販時に「有」と書ける期間が、どちらも2年で一致しています。偶然ではなく、記録簿が2年ぶん残っていれば次の買い手へ整備の履歴を示せるという設計です。そして記録簿は、捨ててしまったあとに作り直せません。
記録簿に載る中身も確認しておきます。自動車点検基準は記載事項として、登録自動車なら自動車登録番号(軽自動車等は車両番号、その他は車台番号)、点検又は特定整備時の総走行距離、点検又は整備を実施した者の氏名又は名称及び住所を挙げています。実施した工場の名前と住所まで残るため、第三者が後から確かめられる記録になっています。
国土交通省は記録簿について、自動車の「生涯記録簿」として活用されることが望まれると書いています。売却の場面では、この言葉がそのまま効いてきます。
手を入れられる2つ目:車検証の備考欄を自分で読む
自分の車の点検整備がどう記録されているかは、業者に聞く前に確かめられます。国土交通省は、車検時に確認した点検整備実施状況を車検証の備考欄に記載する運用を、平成26年2月(軽自動車は平成27年1月)より始めたと説明しています。目的は、ユーザーに自分の車両の点検整備実施状況を把握してもらうことです。
つまり、車検を受けるたびに「点検整備をしてきた車かどうか」の痕跡が公的な書面へ残っています。査定を申し込む前に自分で読んでおけば、記録簿が見つからない場合でも、いつの時点までは記録があるのかを把握できます。
ここで1つ注意があります。2023年から交付されている電子車検証は、券面の記載事項が絞られています。国土交通省が公表している券面記載事項の一覧は、自動車登録番号または車両番号、車台番号、交付年月日、使用者の氏名又は名称、車名・型式、初度登録年月または初度検査年月などで、備考はこの一覧に含まれていません。有効期間や所有者の氏名・住所はICタグ側に格納されます。
券面で見つからないときは、電子車検証と一緒に交付される「自動車検査証記録事項」を見るか、車検証閲覧アプリでICタグを読みます。同省は記録事項について、ICタグに記録され券面で確認できない事項を容易に確認できるよう補助的に渡すものだと説明しています。車検証そのものの扱いは車の売却に必要な書類でも整理しています。
手を入れられる3つ目:未実施のリコールを先に調べる
売る前に確かめておきたいものがもう1つあります。自分の車に、まだ実施していないリコールが残っていないかです。
国土交通省のリコール情報検索は「車名、型式、届け出日からリコール等の内容を検索することができます」と案内しています。検索結果の届出番号を開き、自動車検査証(車検証)等に記載されている車台番号と照合して確認する流れです。
ただし同省は、仕様(例として自動変速機と手動変速機の違い、ターボの有無など)により対象外の場合もあるため、必ず調べたい車の自動車メーカーまたは最寄りの販売会社等に確認するよう求めています。個別の車台番号調査についても、自動車メーカー及び販売会社に問い合わせるよう案内しています。検索だけで結論を出さず、最後はメーカーか販売店に当てるという順序です。
道路運送車両法は第47条で、使用者が点検をし必要に応じ整備をすることで自動車を保安基準に適合するよう維持する義務を定めています。売る直前だけの話ではありませんが、未実施のものが残っているかどうかを知らないまま引き渡すよりは、調べてから申告したほうが後の説明が楽になります。
そろえるものを、置き場所から並べ直すとこうなります。
| そろえるもの | どこにあるか | 見つからないとき |
|---|---|---|
| 車検証(自動車検査証) | 車内。電子車検証は券面とICタグに分かれる | 自動車検査証記録事項の紙か車検証閲覧アプリで中身を見る |
| 点検整備記録簿 | 車内の車検証入れ、または点検を受けた工場 | 作り直せない。いつの分まで残っているかを把握する |
| リサイクル券 | 車内、または購入時の書類の束 | 預託済みかどうかは表示項目なので、買取店へ相談する |
| リコールの確認結果 | 国土交通省のリコール情報検索と、メーカーまたは販売会社 | 型式だけでは判定できない。販売会社へ車台番号で問い合わせる |
| 申告する内容を書いた紙 | 自分で作る | 修復歴・走行距離計の交換・不具合を思い出して列挙する |
提示額を下げられないようにする
ここからは金額を上げる話ではなく、下がらないようにする話です。実際に相談として寄せられているのは、こちらのほうです。
国民生活センターは2024年6月18日に、中古車の売却トラブルについて注意喚起を出しています。挙げられている相談には、引き渡したあとに「事故車と判断されたため、買取金額を引き下げたい」と連絡を受けた事例、キャンセル料について電話で説明がなかったのに請求された事例、代金の振込が何度も延期された事例があります。
同センターのアドバイスは、査定後の減額や解約には応じる必要がないこと、キャンセル料や支払条件を契約前に確認すること、不安なときは消費者ホットライン「188」に相談することです。
自動車公正取引協議会も、同じ論点を売る側の立場から説明しています。同協議会の「売却後のトラブル」では、修復歴を告げていなかったとして減額を求められた相談について、事業者は専門業者であり通常の検査でそうした点は把握できるはずだとして、消費者が責任を負うものではないという考え方を示しています。走行距離計の改ざん歴についても、車両の検査、整備記録簿の確認、専門の走行距離確認の仕組みによって判明しうるとしています。ただし、十分に調べてもなお分からなかった場合には、元の売主との交渉が必要になることもあるとしています。
裏返すと、先に告げておくことが最も強い備えになります。告げていれば、契約後に同じ理由で減額を求められても応じる必要はないという整理になります。告げていなければ、専門業者の側の落ち度として扱えるかどうかを個別に争うことになります。手間の差は大きく違います。
契約書に署名する前に見る3か所
自動車公正取引協議会は、買取業者との契約について「契約書への署名、捺印」で成立となるケースが多いとし、契約が成立していれば一方的なキャンセルはできないと説明しています。成立後の取り消しには業者の同意が必要になるため、売却前に十分検討することを求めています。
あわせて同協議会は、名義変更を確実に、迅速に行うよう買取店へ依頼することと、契約書の裏面の約款や特約条項をしっかり確認することを挙げています。表面の金額だけを見て署名すると、精算や減額の条件を読まないまま合意したことになります。
消費者庁も取引の注意として3点を挙げています。「査定の場では契約しないようにしましょう」「事前に契約書を確認するようにしましょう」「トラブルになったときは、消費生活センター等や業界団体の相談窓口に相談しましょう」です。相談先として、消費者ホットライン「188(いやや!)」番と、JPUC車売却消費者相談室(0120-93-4595、平日9:00-17:00)が案内されています。
査定の場で契約しないという助言は、高く売ることと矛盾しません。むしろ、その場で決めない前提があるほうが、複数の提示額を並べられます。事業者ごとに比べられる公表情報の範囲は車買取業者の比較で整理しています。
この記事で書かなかったこと
高く売る方法としてよく挙がるもののうち、今回の確認では根拠を示せなかった項目があります。埋めずに残しておきます。
洗車や車内清掃が査定額をどれだけ動かすかは書きません。公表された基準で効果の大きさを示せる資料を確認できませんでした。売る時期による違いも同じです。決算期や年度末に相場が動くという説明は広く見かけますが、公的機関や業界団体が公表した数値として確認できていません。
走行距離が何万キロを超えると評価がどう変わるか、年式が1年違うと何%変わるかといった目安も書きません。中古車査定の基準そのものは一般財団法人日本自動車査定協会が定めていますが、今回はその本文を一次情報として取得できませんでした。取得できた範囲は、修復歴の判断基準が同協会と規約によって定められていることまでです。
金額の話が必要な場合は、複数の事業者に実際の車を見せて提示額を比べるしかありません。その代わりに、この記事で示した記録の準備と申告の確定は、どの事業者に出す場合でも同じように効きます。
売る前にやること
売る側が動かせるのは、11項目のうち3つです。
点検整備記録簿を探して車に戻すこと。法令が求める保存期間と、再販時に「有」と書ける期間が、どちらも2年で一致しています。見つからなければ作り直せません。
車検証の備考欄で点検整備実施状況を読むこと。平成26年2月(軽自動車は平成27年1月)より記載されています。電子車検証の場合は、券面ではなく自動車検査証記録事項か車検証閲覧アプリで確かめます。
リコール情報検索で車名と型式を調べ、該当がありそうならメーカーか販売会社に車台番号で確認すること。仕様によって対象外になることがあるため、検索だけでは決まりません。
そして、修復歴・走行距離計の交換・不具合を、契約前に紙に書いて渡すこと。これは価格を上げる作業ではありませんが、いったん提示された金額を守る作業です。査定当日に手元へそろえるものは車査定に必要なものにまとめています。