中古車の相場は、「この車種のこの年式ならいくら」という形で公表された統計から確かめられません。今回調べた範囲では、車種別・年式別の中古車価格を示す公的な統計を確認できませんでした。毎月公表されているのは、オークション全体の平均価格と、登録手続きの件数です。どちらも、あなたが見ている1台の値段ではありません。
そのため、相場を調べる作業は「正解の価格表を探す」ことではなくなります。実際に行うのは、自分が見ている複数の価格を、比べられる形にそろえることです。価格そのものより、価格に付いている条件を先に合わせます。
先に、誤解しやすい点を片づけておきます。広告で見かける「元の価格より安い」という形の表示は、相場の裏付けとして使えないことがあります。中古車は時間の経過とともに経済価値が下落するため、過去の自店の販売価格を比較対照価格として現在の価格と並べる表示は、不当表示にあたるおそれがあると日本広告審査機構が示しています。安く見える表示と、実際に安いことは別です。
この記事では、公表されている数字の正体とその限界、価格表示に置かれているルール、そして自分の手元で価格をそろえる手順を、順に分けて整理します。売る側から見た価格については車の買取相場はどこで調べるかで扱っています。こちらは買う側が見ている価格の話です。
毎月公表されているのは、オークション全体の平均価格
中古車の価格として定期的に公表されている数字のひとつが、オートオークションの成約価格です。オートオークション会場を運営する株式会社ユー・エス・エスは、月次データとして開催回数、出品台数、成約台数、成約率、成約車両単価を公表しています。このうち価格にあたるのが成約車両単価で、単位は千円です。
同じページで公表されている他の項目も並べると、価格だけを見ていたときには気づかない動きが見えます。
| 2026年度 | 出品台数 | 成約台数 | 成約率 | 成約車両単価 |
|---|---|---|---|---|
| 4月 | 348,991台 | 224,073台 | 64.2% | 1,221千円 |
| 5月 | 281,669台 | 185,404台 | 65.8% | 1,310千円 |
| 6月 | 319,720台 | 209,525台 | 65.5% | 1,315千円 |
| 7月 | 352,947台 | 225,196台 | 63.8% | 1,345千円 |
| 8月 | 254,517台 | 169,966台 | 66.8% | 1,248千円 |
| 9月 | 329,966台 | 212,488台 | 64.4% | 1,275千円 |
| 4〜9月累計 | 1,887,810台 | 1,226,652台 | 65.0% | 1,286千円 |
出品台数がいちばん多かった7月に、成約車両単価もいちばん高くなっています。逆に出品台数がいちばん少なかった8月は、成約率が6か月でもっとも高い一方、単価は下がりました。台数と価格は同じ向きに動くとは限りません。ここで挙げた6か月の並びから因果関係を読み取ることはできませんが、片方だけを見て他方を推測できないことは確かめられます。
数字の扱いについて、同じページには注記があります。記載数字は表示単位未満の端数を切り捨てており、百分率は小数点第2位を四捨五入している、というものです。端数処理まで書かれている数字は、そのまま引用できます。逆に、処理の方法が書かれていない数字は、どこまで正確なのかが分かりません。相場として引用されている数字を見たときは、単位と端数処理の記載があるかを先に確かめてください。
この数字が答えていないこと
成約車両単価は、業者間の取引で付いた価格の平均です。販売店が店頭に並べる前の段階にあたります。店頭に並ぶときの価格には、ここに仕入れ後の費用や販売店の利益が加わります。したがって、この数字をそのまま店頭価格の目安にすることはできません。
もうひとつの制約は、平均の中身です。全車種・全年式を合わせた平均であり、軽自動車も輸入車も、年式の新しい車も古い車も同じ平均に入っています。自分が検討している車種の相場を、この平均から取り出すことはできません。
では何に使えるのか。使えるのは、全体の水準が上を向いているか下を向いているかの確認です。2026年度の4月から9月までの6か月で、成約車両単価は1,221千円から1,345千円の範囲で動き、累計は1,286千円でした。半年のあいだに1割程度の幅で上下しているという読み方までが、この数字で言えることになります。「いま中古車の全体の水準はどうなっているか」という問いには、この粒度でなら答えられます。「この車はいま高いのか」には答えられません。
実際の公表ページは、月ごとの実績と前年比を並べた表の形で出ています。
台数の統計は、売れた台数ではありません
価格と並んで引用されやすいのが、中古車の登録台数です。日本自動車販売協会連合会が月別・年別に公表しています。ここで注意したいのは、集計の定義です。
同協会の中古車統計データのページには、登録台数が新規登録台数と所有権の移転登録台数及び使用者名の変更登録台数という三つの手続きを合算したものだと書かれています。販売台数ではありません。相続による名義変更や、家族のあいだでの使用者変更も、同じ合計に入ります。
この違いは、数字の読み方を変えます。「中古車の登録台数が前年を上回った」という事実から、「中古車が前年より多く売れた」とは言えません。手続きの件数を販売の数として読むと、需要を実際より大きく見積もることになります。価格が上がる理由としてこの台数を持ち出す記述を見かけたら、まず定義に戻ってください。
なお、月別の実数はPDFとExcelで公表されていますが、今回はファイルの中身を機械的に読み取れなかったため、本文には台数を載せていません。確認できたのは、上に引いた集計の定義だけです。
「元の価格より安い」は、相場の根拠になりません
ここまでが公表値の話です。次は、店頭や広告で目にする価格の表示です。
日本広告審査機構は、中古車販売店が過去の自店の販売価格と現在の価格を並べて表示していた事例について、問題があるとしています。理由として挙げられているのは、中古車が時間経過に伴う車両の品質劣化や、車検残および自動車税・自賠責保険の未経過分の減少などにより、次第に経済価値が下落する商品だという点です。
つまり、半年前の同じ車と今日の同じ車は、同じ商品として扱われません。この点をふまえ、過去の販売価格を比較対照価格とした二重価格表示は、景品表示法第5条第2号と公正取引委員会のガイドラインにある「同一ではない商品との二重価格表示が行われる場合には、不当表示に該当する恐れがある」に抵触するおそれがあるとされています。同機構は、新車の販売価格を比較対照価格とした中古車の二重価格表示についても、新車と中古車は品質や経済価値が異なる商品であるとして同じ扱いを示しています。
この区別は、読者の側にも使えます。価格の安さを示す材料として出されているものが、公表された数字なのか、過去の自店価格なのかを見るだけで、根拠の強さが変わります。
安い価格表示そのものが問題になった例
自動車公正取引協議会は、不当表示の禁止に関するルールのページで、販売価格の不当表示の例を挙げています。そこに載っているのは、「お買得車1万円」と表示しながら、実際はオークション会場から店舗への陸送費として別途10万円を請求したものという例です。
この例が示しているのは、表示された価格の低さが、支払う金額の低さを意味しないという構造です。同じページには、走行距離、修復歴、保証についても不当表示の例が並んでいます。メーターを巻き戻して実際より少ないキロ数をそのまま現在の走行距離として表示したもの、修復歴車は販売しないと表示しながら販売したもの、全車保証と表示しながら廉価販売車は保証なしだったものです。価格だけでなく、価格の前提になる項目にも表示のルールが置かれています。
価格の表示そのものについては、2023年10月1日に施行された改正規約で形が決まりました。販売価格を表示する場合は、車両価格に諸費用を加えた価格を「支払総額」の名称で表示し、内訳として車両価格と諸費用の額を示すというものです。内訳に何が入るかは狙い目の中古車の見分け方で扱っています。この記事では、比べるときの単位が支払総額であることだけを押さえておきます。
自分の手元で、価格をそろえる
公表値では1台の相場を出せず、広告の値引き表示も根拠にできません。残るのは、自分が見ている価格をそろえる作業です。
そろえる項目は、思いつきで決める必要がありません。店頭展示車に表示する項目は規約で決まっており、販売価格、初度登録年月、車名及び主な仕様区分、定期点検整備の有無、保証の有無、走行記録数、修復歴の有無、使用歴、前使用者の点検整備記録簿の有無、自動車検査証の有効期限、自動車リサイクル料金が挙げられています。この表示項目が、そのまま比較の軸になります。
6つのうち最後の1項目だけは、表示されているものではありません。自分で記録するものです。何台を、いつ見たのかを書き残しておくと、あとから同じ比較を再現できます。3台を見て付けた見当と、30台を見て付けた見当は、同じ「相場観」という言葉で呼べません。母数と日付のない比較は、翌週には検証できなくなります。
そろえた結果として価格差が残ったときに、はじめて理由を探せます。差の説明に使えるのは、表示されている項目の違いです。年式と走行距離をどう読み分けるかは中古車の年式と走行距離の見方、保証の範囲がどこで確定するかは中古車の保証の見方にあります。価格をそろえる作業は、結局この表示項目を1つずつ読む作業と同じものになります。
この記事で確認できなかったこと
書けなかった項目を残しておきます。
- 車種別・年式別の中古車価格を示す公的な統計。今回参照した公的機関と業界団体のページでは確認できませんでした
- 月別の中古車登録台数の実数。公表ファイルの中身を機械的に読み取れなかったため、集計の定義だけを引用しています
- 中古自動車の査定基準。一般財団法人日本自動車査定協会のページは、今回の取得方法では接続できなかったため参照していません
- オークションの成約車両単価から店頭の支払総額までに、どれだけの差が生じるか。公表された資料を確認できませんでした
よくある質問
オークションの成約車両単価が上がれば、店頭の中古車も高くなりますか
その関係を示す公表資料を確認できなかったため、この記事では断定しません。成約車両単価は業者間の取引価格の平均で、店頭価格とは別の段階の数字です。読み取れるのは、全車種・全年式を合わせた全体の水準が、その月に上を向いていたか下を向いていたかまでです。
「相場より30万円安い」と書かれた車は、本当に安いのですか
その表示だけでは判断できません。比較対照になっている価格が何なのかが分からないためです。過去の自店の販売価格や新車の販売価格を比較対照価格とした中古車の二重価格表示は、不当表示にあたるおそれがあると日本広告審査機構が示しています。安さを確かめるには、同じ条件の車の支払総額を自分で並べることになります。
中古車の登録台数が増えているのは、売れているということですか
そうとは読めません。日本自動車販売協会連合会が公表している登録台数は、新規登録台数と所有権の移転登録台数及び使用者名の変更登録台数という三つの手続きを合算したものです。名義変更の手続きも同じ合計に入るため、販売台数として扱えません。